糖尿病のある方がなりやすいサルコペニアとは?
サルコペニアは、筋肉量の減少から身体機能が低下した状態のことを指します。糖尿病のある方は、サルポペニアになりやすいと言われており、生命予後に関わるので注意が必要です。この記事では、糖尿病のある方がサルコペニアになりやすい原因やその対策に関して解説します。
本日のポイント
- サルコペニアになると、様々な病気にかかりやすく、健康リスクや死亡率の増加につながる。
- 加齢や運動不足が主な原因となるが、糖尿病や心不全、腎不全、肝不全といった臓器不全を原因とした 「二次性サルコペニア」 もある。
- サルコペニアは、握力、身体機能 (歩行速度、椅子立ち上がり) 、骨格筋指数 (SMI: Skeletal Muscle Mass Index) などから診断する。
- 糖尿病のある方は、糖尿病がない高齢者と比較して、糖尿病合併症やインスリン抵抗性から、サルコペニアの罹患率が高く、さらに血糖コントロールの悪化に伴って罹患率が上がる。
- サルコペニアの予防や治療には、十分なタンパク質を摂取することとロコモ体操など継続できる運動療法が重要。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、筋肉量が減少し、身体活動能力が低下している状態を指します。
加齢に伴い筋肉量や筋力は減少するため、高齢になるとサルコペニアを発症しやすくなります。
放置してしまうと、転倒、骨折、寝たきりの原因になりますし、活動量が減り、食欲低下からさらなる栄養不足となる悪循環が生まれます。
またサルコペニアになると、様々な病気にかかりやすく、健康リスクや死亡率の増加につながることが知られています。
近年のCOVID-19感染症の拡大も影響して、高齢者が増加している日本において、サルコペニアは重大な健康障害として問題となっています。
加齢や運動不足が主な原因となりますが、糖尿病や心不全、腎不全、肝不全といった臓器不全を原因とした 「二次性サルコペニア」、肥満を合併した 「サルコペニア肥満」 なども存在します。
サルコペニアの診断
サルコペニアは、握力、身体機能 (歩行速度、椅子立ち上がり) 、骨格筋指数 (SMI: Skeletal Muscle Mass Index) などから診断します。
SMIは、四肢の骨格筋肉量の合計を 身長 (m) の 2 乗で割った値で、体組成測定で確認できます。
AWGS 2019 (Asian Working Group for Sarcopenia 2019) の診断基準1)では、握力低下、歩行速度低下に加えて、男性でSMI 7.0 kg/m2未満、女性でSMI 5.7 kg/m2未満で、サルコペニアの診断となります。
簡単に筋肉の減少をセルフチェックする方法として 「指輪っかテスト」 があります。
椅子に座って両足を地面につけて、ふくらはぎ (利き足でない足) の一番太い所を、両手の親指と人差し指で輪っかを作って囲み、ふくらはぎと指輪っかの間に隙間ができてしまう場合は、サルコペニアの可能性が高いです。
また 「横断歩道を渡り切ることができない」、「ペッドボトルの蓋を開けにくくなった」 などの症状は筋肉量の減少や筋力低下が疑われるので、注意が必要です。
1)Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc 21. 3 (2020): 300-307
糖尿病とサルコペニア
糖尿病のある方は、糖尿病がない高齢者と比較して、サルコペニアの罹患率が高く、さらに血糖コントロールの悪化に伴って罹患率が上がることが分かっています。
また筋肉量の減少は血糖値を上昇させ、活動能力の低下がさらなる糖尿病の悪化につながるため、サルコペニアの罹患は、血糖コントロールに影響します。
糖尿病のある方が、サルコペニアになりやすい原因は以下になります。
① 糖尿病合併症
血糖コントロールの不良が継続すると発生する糖尿病合併症が、サルコペニアの発症と関連しています。
慢性合併症である神経障害は、脳から筋肉へと指令を伝える運動神経を障害し、筋肉量を減少させることが分かっています。
また高血糖が継続すると、様々な動脈硬化性疾患の発症頻度が高くなりますが、動脈硬化は筋肉への栄養供給が滞ってしまうため、筋肉量の減少につながります。
② 血糖高値
高血糖とサルコペニアの関連に関する報告は多数あります。
過去の報告では、HbA1c 8.0%以上の場合は、6.5%未満の場合と比較して筋肉量の減少が約5倍多かったです2)。
なお、高血糖によって筋肉が減少するメカニズムは 「KLF15」 などタンパク質が関わることが明らかになっています3)。
③ インスリン抵抗性
血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、タンパク質を合成する作用も持っています。
細胞に対するインスリンの作用が不足するインスリン抵抗性があると、タンパク質の合成が減り、タンパク質の分解が進み、筋肉量が減少し、筋力、歩行速度の低下に関連します。
筋肉を維持することは、サルコペニアの予防だけでなく、減量や血糖コントロールの改善にもつながるので、非常に重要です。
2)Sugimoto K, et al. Hyperglycemia in non-obese patients with type 2 diabetes is associated with low muscle mass: The Multicenter Study for Clarifying Evidence for Sarcopenia in Patients with Diabetes Mellitus. J Diabetes Investig 10. 6 (2019): 1471-1479
3)Hirata Y, et al. Hyperglycemia induces skeletal muscle atrophy via a WWP1/KLF15 axis. JCI Insight 4. 4 (2019): e124952
サルコペニアを予防するには?
サルコペニアの予防や治療には、食事療法と運動療法があります。
適切な食事療法や運動療法によって、タンパク質の合成が増加し、筋肉量が増えます。
まず食事療法として十分な量のタンパク質を摂取することが必要です。
具体的には、65歳以上の高齢者では、1日に体重1kg当たり1.0g以上のタンパク質を摂取することが望ましいと言われています。
しかし、糖尿病合併症である糖尿病腎症がある方など、タンパク質摂取制限が必要なケースもあり、併存症によって摂取量調整が必要なので、まずは主治医の先生と相談することをお勧めします。
運動療法としては、筋肉トレーニングが主になりますが、具体的にはスクワットや腕立て伏せが挙げられます。
高齢者では、運動の際の転倒リスクもあるので、椅子に座りながらのもも上げなど、軽めの運動から始めるのが望ましいです。
特に、身体機能低下の予防が期待できるロコモ体操はお勧めです。
運動療法は継続することが重要であり、まずは座りっぱなしや寝転んでいる時間を減らし、家の中でも可能な限り活動的に生活を送ることが大切です。
適切な食事療法、運動療法にてサルポペニアは予防できますので、まずは自分の筋肉を評価することをお勧めします。
当院では握力、骨格筋量指数:SMI測定を行っており、サルコペニアのチェックができますので、気軽にご相談ください。
以上、糖尿病のある方がなりやすいサルコペニアとは?、という話題でした。
この記事が、皆様の生活 (ライフ) のお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。