日常生活に影響を及ぼす糖尿病性自律神経障害
- 2024年8月9日
- 糖尿病
神経障害は、糖尿病の合併症のなかで、最も頻度が高い合併症です。神経障害のひとつである糖尿病性自律神経障害は、様々な臓器をつかさどる交感神経、副交感神経の障害により様々な症状を引き起こすため、日常生活に多大な影響を及ぼします。この記事では、糖尿病性自律神経障害の症状や診断、治療に関して解説します。
本日のポイント
- 自律神経は、自分の意思とは関係なく体を調整する神経で、体の様々なバランスを保つ働きを持つ。
- 自律神経は全身の様々な臓器や器官をつかさどっているので、そのバランスが崩れると、全身に様々な症状が認められ、日常生活に大きな影響を与える。
- 具体的な症状として、頻脈、起立性低血圧、便秘、下痢、神経因性膀胱、勃起障害、無汗症、無自覚性低血糖などがある。
- 糖尿病性自律神経障害の治療の基本は、まず厳格な血糖管理が基本。
- 血糖だけでなく、血圧、コレステロール、中性脂肪、喫煙など心血管病のリスクとなる因子の包括的な管理も重要。
糖尿病性自律神経障害とは?
糖尿病のある方は、高血糖が長年継続すると、全身に様々な合併症 (慢性合併症) を引き起こします。
その合併症の中でも、神経障害は最も頻度が高い合併症になります。
神経障害は、「感覚神経障害」、「運動神経障害」、「自律神経障害」の三つがあり、典型的な症状として、足先のしびれや冷感、感覚異常を引き起こします。
自律神経は、自分の意思とは関係なく体を調整する神経で、交感神経と副交感神経の2種類に分類することができ、それぞれがアクセルとブレーキの働きとなり、体の様々なバランスを保ちます。
自律神経は全身の様々な臓器や器官をつかさどっているので、そのバランスが崩れると、全身に様々な症状が認められ、日常生活に大きな影響を与えます。
生活の質が下がるだけでなく、無痛性心筋梗塞、重症不整脈などのリスクも上げ、生命予後にも影響する合併症になります。
糖尿病性自律神経障害の症状
主な糖尿病性神経障害の症状は以下になります。
① 心血管系
頻脈:安静時でも心拍数が 90~100/分の頻脈となり、自覚症状として動悸を認めます。
起立性低血圧:起立直後に眼前暗黒感、めまい、脱力を認め、意識を消失する場合もあります。
無痛性心筋梗塞:心筋梗塞を発症しても、胸痛を伴わないので、治療のタイミングが遅れます。
不整脈:心電図にてQT間隔延長などの不整脈が増えます。
② 消化管系
胃不全麻痺:胃内容物の排出遅延を特徴とし、短時間での満腹感や胃部不快感、嘔気、食欲不振などを認め、血糖値も変動しやすくなります。
下痢、便秘:発作的に下痢を起こします。下痢と便秘を繰り返すこともあります。
便失禁:肛門括約筋不全が原因となります。
③ 泌尿器、生殖器系
神経因性膀胱:尿意が低下し、排尿回数が減少します。膀胱内に残尿を認めるようになり、腎盂腎炎などの尿路感染症、水腎症による腎不全を引き起こします。
勃起障害 (ED):男性2型糖尿病患者さんの合併率は高いです。
逆行性射精、膣分泌液低下:不妊症の原因となります。
④ 発汗系
無汗症:皮膚の乾燥の原因となり、両かかとのひび割れなどを引き起こします。
発汗過多:顔面や体幹に認め、食後 (味覚性) に発症する場合があります。
⑤ 副腎・代謝系
無自覚性低血糖:通常、血糖値が50 mg/dl以下になると、動悸、発汗、手の震えなどの低血糖症状を自覚しますが、低血糖によって分泌されるアドレナリンの反応低下により、無自覚のうちに低血糖が進行し、意識を消失してしまいます。
糖尿病性自律神経障害の診断
自律神経障害を評価する方法が以下になります。
心電図検査にて、心拍数 (頻脈)、不整脈の有無を確認します。
心拍数の変動の程度を調べるR-R間隔変動係数 (CVR-R) も自律神経障害の評価には有効です。
起立性低血圧は、起立後3分以内に収縮期血圧が20 mmHg以上の低下か、拡張期血圧10 mmHg以上の低下を認めた場合に診断されます。
胃不全麻痺は、海外では胃シンチグラフィー検査にて判断されていますが、日本では普及していないため、症状から診断をします。
下痢、便秘に関しては、症状を誘発する薬物 (α-グルコシダーゼ阻害薬やビクアナイド薬など) の使用を確認し、大腸癌などの器質的な病気がないか大腸内視鏡検査を行うことが重要です。
神経因性膀胱は、1日の排尿回数と排尿量を確認し、1回の排尿量が400 cc以上であれば疑います。確定診断には、泌尿器科受診が必要です。
無自覚性低血糖の診断には、持続血糖モニタリング (CGM) が有用です。CGMとは、上腕などにセンサーを刺して、自動で皮下の間質液中のグルコース値を持続的に測定し、1日の血糖トレンドを調べる検査器具です。睡眠時に低血糖を起こしていないかも把握できますし、低血糖を起こしやすい状況を認識することが重症低血糖の予防につながります。
糖尿病性自律神経障害の治療
糖尿病性自律神経障害の治療の基本は、まず厳格な血糖管理が基本になります。
具体的には、糖尿病の診断早期から、低血糖に注意しながら、HbA1c 7.0 %を超えない血糖コントロールを維持することが望ましいです。
また血糖だけでなく、血圧、コレステロール、中性脂肪、喫煙など心血管病のリスクとなる因子の包括的な管理も重要です。
そして各症状に対する治療は以下になります。
起立性低血圧:
原因となるSGLT2阻害薬や利尿剤、血管拡張剤などの薬剤を使用していれば中止を検討します。起立性低血圧に対する薬物療法は、十分な効果が得られないのが現状であり、こまめな水分摂取、適度な塩分摂取、弾性ストッキングの着用、ベッド上では20度程度頭を高くするなどの非薬物療法が中心になります。
胃不全麻痺:
よく噛んで、少量ずつ頻回の食事摂取をする、高脂肪食は控えることが大切です。薬物療法としては、モサプリド (ガスモチン®) 、メトクロプラミド (プリンペラン®)、ドンペリドン (ナウゼリン®) などが有効です。
下痢:
糖尿病薬のなかで、ビグアナイド薬、αグルコシダーゼ阻害薬、GLP-1 受容体阻害薬は下痢の原因となるため中止を検討します。薬物療法としては、ロペラミド (ロペミン®) などの止痢薬を使用したり、抗菌薬が有効な場合があります。
神経因性膀胱:
薬物療法は効果が得られない場合も多く、膀胱内の残尿を出すために、患者自身または介助者が下腹部を手で押して尿を排出させるクレーデ法手圧排尿を指導します。症状が重度の場合は、自己導尿が必要になる場合もありますので、泌尿器科の受診が必要です。
勃起障害 (ED):
喫煙や過度のアルコール摂取、高脂肪食の食生活をしている方は、まずその生活習慣を是正することが重要です。薬物療法として、シルデナフィル (バイアグラ®)、バルデナフィル (レビトラ®)、タダラフィル (シアリス®) がありますが、副作用として頭痛、顔面紅潮、鼻腔内充血や、狭心症などの治療に用いられる亜硝酸薬との併用による重度な血圧低下などがあり、注意が必要です。
このように糖尿病性神経障害は、非常に多彩な症状を呈し、生命予後にも影響するため、早期診断、早期治療が重要です。
気になる症状がありましたら、早めに主治医の先生に相談することをお勧めします。
以上、日常生活に影響を及ぼす糖尿病性自律神経障害、という話題でした。
この記事が、皆様の生活 (ライフ) のお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。