糖尿病患者さんは、なぜフットケアが必要なのか?
近年、糖尿病患者さんに対するフットケアの重要性が高まっています。この記事では、糖尿病患者さんに、なぜフットケアが必要か、具体的なケア方法も含めて解説します。
本日のポイント
- 糖尿病の重篤な合併症の一つとして足の切断があり、その原因は、足潰瘍がほとんどである。
- 足潰瘍の原因は、靴擦れ、熱傷、胼胝 (たこ)、巻き爪など様々。
- 足の切断となった糖尿病患者さんは高い死亡率を有する。
- 将来潰瘍になる可能性が高い、爪の異常や胼胝、足白癬 (水虫) などの「前潰瘍性病変」を早期発見し、早期治療することが必要。
- 糖尿病患者さんは、日頃より足の観察、清潔保持、保湿ケア、正しい靴の選択と履き方、適切な爪の手入れ、外傷予防を心がけ、何かおかしいと思った時点で、医療機関を早めに受診して頂くことが、足を守るためには重要。
フットケアの必要性
糖尿病患者さんにおける重篤な合併症の一つとして足の切断が挙げられます。
足の切断は、ほとんどの場合、足潰瘍が原因となります。
足潰瘍とは、「足の皮膚の表面が炎症を起こしてくずれてしまい、できた傷がえぐれたようになった状態」 を指します (以下写真参照)。
足潰瘍が悪化し、皮膚や皮下組織が死滅し、黒色化した状態が壊疽 (エソ) になります。
足潰瘍の原因は、靴擦れ、熱傷、胼胝 (たこ)、巻き爪など様々です。
糖尿病患者さんに対するフットケアの意義は、足を救うこと、救肢であり、具体的には足潰瘍に対する予防と治療が中心になります。
足の切断となった糖尿病患者さんは、高い死亡率を有することが知られているため、救肢は生活の質(Quality ofLife: QOL) の低下予防のみならず、生命予後の改善にも寄与する可能性があります。
そのため糖尿病患者さんでは、足潰瘍を発症させないための予防的フットケアが必要になります。
糖尿病性足潰瘍の疫学
糖尿病患者さんでは、靴擦れやちょっとした足の傷でも、悪化しやすく足潰瘍へと進行します。
また足潰瘍は再発しやすく、重症化して足壊疽を引き起こすと、足の切断を余儀なくされることもあります。
糖尿病患者さんが一生涯で糖尿病性足潰瘍を起こすリスクは15~20%であり、そのうち7~20%が足の切断に至ると言われています 1、2)。
日本における外来糖尿病患者さんでは、年間0.3%で足潰瘍が発生し、0.05%で下肢切断が発生していると報告されています 3)。
わが国の糖尿病患者数は、約1000万人いると言われており、1年間で約3万人の方に足潰瘍が発症することになります。
また下肢切断後の生命予後は極めて不良であり、その死亡率は、術後1年で約30%、3年で約50%、5年で約70%と報告されています 4)。
1) J J van Netten et al: Diabetes Metab Res Rev 32: 84-98, 2016
2) Frykberg RG et al: J Foot Ankle Surg 45: S1-S66, 2006
3) Masanori Iwase et al:
Diabetes Res Clin Pract 137: 183-189, 20184) Jones NJ et al: Int Wound J 12: 373-374, 2015
足潰瘍を発症しやすい人
糖尿病患者さんで足潰瘍を発症するリスクが高い方は、神経障害や足の血流障害がある方、以前に足潰瘍を患ったことがある方、足を切断したことがある方、足に変形がある方、胼胝や足白癬(あしはくせん:水虫)といった皮膚の病気がある方です。
足先にジンジン・ピリピリしたしびれ感がある、痛みや熱さ・冷たさを感じにくい、皮膚が乾燥してひび割れている、足首や足指の関節が動きにくい、足が冷たい、皮膚が紫色になるなどの症状がある方は、足潰瘍を発症しやすいので注意が必要です。
足潰瘍を発症させないための予防的フットケア
足潰瘍の発症には多くの要因が関係していますが、将来潰瘍になる可能性が高い「前潰瘍性病変」を早期発見し、早期治療することが足潰瘍を発症させないためには重要です。
前潰瘍性病変には、爪の異常や胼胝、足白癬などがあります。
(1)爪の異常とネイルケア
爪の異常は糖尿病患者さんに多く、その種類は肥厚、変形、巻き爪、爪水虫など様々です。
爪の異常があると、自分で爪を切ることが難しくなります。
特に、糖尿病網膜症によって視力が低下した方では、誤って爪切りで皮膚を切ってしまうこともあり、これが足潰瘍の引き金になることがあります。
自分で爪を切るのが難しい場合には、家族に頼んだり、主治医にネイルケアの方法を相談しましょう。
なお、爪切りは、ニッパーや爪やすりで「スクエアオフ」に整えるのが正しい切り方です。
巻き爪も糖尿病患者さんに多い症状であり、足に合わない靴や深爪がきっかけとなります。
爪が皮膚に刺さり、炎症や感染を起こす場合もあるため、巻き爪はその程度に合わせて、爪の矯正や外科的な治療が必要になります。
また、爪には本来巻く性質があり、足の指を踏ん張ることが巻き爪に反発する力となります。
普段から自分の足に合った靴を履き、足先をきちんと地面に付け、指に力をかけて歩くことが巻き爪の予防に繋がります。
ネイルケアに関しては、以下の過去記事も参考にしてください。
今日からできる巻き爪のセルフケア6選
(2)胼胝(たこ)ケア
胼胝は、圧迫や摩擦などの刺激を、皮膚が繰り返し受ける事により形成されます。
厚く硬くなった胼胝を放置すると、さらに圧力がかかり潰瘍を発症します。
そのため胼胝を認めた場合、定期的に削ったり、切除する必要があります。
切除しても再発を繰り返す場合には、歩く時の体重のかかり方や足の変形を評価し、必要に応じて適切な靴や中敷きの作成が必要です。
(3)足白癬 (足水虫) と治療
糖尿病患者さんは、高血糖による易感染性から足白癬 (足水虫) になりやすいだけでなく、慢性化や重症化しやすいことがわかっています。
足白癬は細菌侵入の経路となり、足潰瘍の原因となるため早期治療が必要です。
足白癬というと強いかゆみや、じゅくじゅくとした外見を想像しがちですが、自己判断ではなく皮膚科できちんと診断してもらってから薬を塗りましょう。
また、症状が改善しても、医師の指示した期間は薬を継続して使い、根治をめざしましょう。
セルフケアの必要性
糖尿病性足潰瘍の予防は、普段の血糖コントロールや足の手入れが大切であり、ご本人の協力なしには実現しません。
糖尿病患者さんは神経障害によって、足の感覚が鈍くなっているため、傷ができても気がつかなかったり、痛みを感じないことが多いです。
1 日に1 回以上、足に異変が起きていないか、しっかり観察する習慣を身につけましょう。
その際に、皮膚の状態も観察することが大切です。
神経障害は発汗機能に影響するため、皮膚の乾燥、ひび割れが起きていることもあります。
乾燥からかゆみを誘発し、搔き壊して足を傷つけてしまうこともあるので、必要に応じて保湿剤を塗るなど、皮膚の保湿ケアを心がけましょう。
日頃より足の観察、清潔保持、保湿ケア、正しい靴の選択と履き方、適切な爪の手入れ、外傷予防を心がけ、何かおかしいと思った時点で、医療機関を早めに受診して頂くことが、足を守るためには重要です。
以上、糖尿病患者さんは、なぜフットケアが必要なのか?、という話題でした。
この記事が、皆様の生活 (ライフ) のお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。