日本の保険診療で使える肥満症治療薬はどんなもの?
「肥満の治療に薬はあるの?」と思ったことはありませんか?
日本では食事や運動など生活習慣の改善が基本ですが、条件を満たせば保険診療で使える薬物療法もあります。
この記事では、現在、日本で使える肥満症治療薬を、最新のウゴービやゼップバウンドも含めて整理します。
本日のポイント
- 保険診療で使える薬に、GLP-1受容体作動薬・漢方薬・マジンドール(サノレックス®)がある。
- GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(ウゴービ®)やチルゼパチド(ゼップバウンド®)が新しく承認され、治療の選択肢が広がった。
- 漢方薬のなかで「防風通聖散・防已黄耆湯・大柴胡湯」は肥満症に効能あり。
- サノレックスは高度肥満に限られ、使用は短期間のみ。
- 薬は、あくまで「生活習慣改善の補助」である。
保険診療で使える肥満症治療薬は?
現在、日本の保険診療で使える肥満症治療薬には、
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GLP-1受容体作動薬(セマグルチド〔ウゴービ®〕、チルゼパチド〔ゼップバウンド®〕)
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漢方薬(防風通聖散・防已黄耆湯・大柴胡湯)
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マジンドール(サノレックス®)
があります。
GLP-1受容体作動薬と新しい肥満症治療薬
GLP-1受容体作動薬は、腸から分泌されるホルモン「GLP-1」と同じ働きをする薬で、食欲を抑え、体重を減少し、血糖値を下げる作用があります。
肥満症治療に対するGLP-1受容体作動薬は、2025年9月時点では、以下の2種類になります。
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セマグルチド(ウゴービ®)
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チルゼパチド(ゼップバウンド®)
これらの薬を保険診療で使用するにはいずれも、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症に限定され、施設や医師に制限があります。
具体的な条件は、以下になります。
1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれか1つ以上の診断がなされ、かつ以下を満たす患者であること。
・BMI※が27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMI※が35kg/m2以上
※ BMI (Body Mass Index) = 体重(kg) ÷ {身長(m) × 身長(m)}
※ 肥満に関連する健康障害:耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・女性不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候 群・肥満低換気症候群、運動器疾患 (変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節・変形性脊椎症)、肥満関連腎臓病
2)適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。
3)本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病に対して薬物療法を含む適切な治療が行われている患者であること。
さらに、肥満症治療に関連する学会(日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会)の専門医と栄養指導を行うことができる管理栄養士が常勤している教育研修施設でないと、使用できません。
教育研修施設であるクリニックはほとんどないため、GLP‐1受容体作動薬の保険診療での処方は総合病院や大学病院で行うことになると考えられます。
GLP-1作動薬は、新たな肥満治療として期待されていますが、保険診療で開始するための条件は、なかなか厳しいです。
この2剤に関する詳細は、当院ホームページの肥満症治療ページを参照ください。
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漢方薬はどんなときに使う?
日本の保険診療では、肥満症に効能が明記されている漢方薬が3種類あります。
① 防風通聖散:体力があり、便秘や皮下脂肪が多い人が適応。
数kgの体重減少や腹囲減少が報告されています。
ただし、食事・運動療法との併用が前提で、単独で大きな効果を示すものではありません。
② 防已黄耆湯:色白で汗をかきやすく、疲れやすい「下肢にむくみをきたす水太りタイプ」が適応
体重減少効果よりも「むくみ改善」や「体質改善」が主になります。
③ 大柴胡湯:体力があり、上腹部が張って苦しく便秘を伴う人(ストレス性・内臓脂肪型)が適応
体重・肝機能改善効果(脂肪肝改善)を示した小規模研究があります。
漢方薬は、劇的に体重を落とす薬ではありません。
あくまで体質に合わせて、便秘やむくみ、ストレスなど“肥満に関わる症状”を整えながら、生活習慣改善をサポートするものです。
平均すると1〜3kg程度の体重減少が期待されることもありますが、必ずしも誰にでも効くわけではありません。
「防風通聖散と防已黄耆湯を2種類一緒に飲んでもいいですか?」と質問を受けることがあります。
結論から言うと、漢方薬は基本的に1種類を中心に使うのが原則です。
なぜなら、多くの漢方は複数の生薬で構成されており、安易に併用すると以下のようなリスクがあるからです。
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生薬の重複:同じ生薬が複数の処方に含まれており、過量になる可能性がある(大黄、甘草など)。
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証(体質)の矛盾:異なる証に合わせた処方を同時に使うと、効果が相殺されたり副作用が出やすくなる。
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副作用リスク:下痢や浮腫、電解質異常などが起きやすくなる。
ただし、「主剤+補助的な処方」として組み合わせるケースはあります。
たとえば、防風通聖散で肥満症を治療しながら、浮腫が強いときに防已黄耆湯を短期間併用するといった使い方です。
ポイントは、市販薬や自己判断での複数併用は避けることであり、医師が調整する必要があります。
漢方薬を飲むときの併用薬注意
「漢方は天然だから安心」と思われがちですが、実際には西洋薬との飲み合わせに注意が必要な場合があります。
特に肥満症に使われる漢方薬には、生薬由来の成分が他の薬と作用し合う可能性があります。
甘草(カンゾウ)を含む処方
防風通聖散など、多くの漢方に甘草が含まれており、甘草はカリウム低下を起こしやすく、利尿薬(サイアザイド系・ループ利尿薬)やステロイド薬と一緒に使うと、低カリウム血症・高血圧・浮腫を悪化させるリスクがあります。
大黄(だいおう)を含む処方
防風通聖散や大柴胡湯に含まれる「大黄」は、下剤作用があります。
下剤や緩下薬との併用で下痢や脱水が起きやすくなり、またジギタリス製剤では低カリウムを介して中毒を起こす可能性があります。
自己判断で市販の漢方薬と西洋薬を併用するのは避けて、必ず医師や薬剤師に「何を飲んでいるか」を伝えることが重要になります。
マジンドール(サノレックス®)はまだ使える?
マジンドール(サノレックス®) は、1973年に日本で承認された「食欲抑制薬」で、現在でも保険診療で使える数少ない抗肥満薬のひとつです。
中枢神経に作用して食欲を抑える働きを持ち、交感神経系を刺激するため摂取カロリーを減らす効果が期待されます。
適応と条件は、BMI35以上の高度肥満症で、さらに 糖尿病・高血圧・脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などの肥満が原因の健康障害を持つ場合 に限られます。
使用期間は、最長3か月までであり、長期使用は副作用リスクが高まるため禁止されています。
副作用として、不眠、動悸、血圧上昇、口渇などの交感神経刺激症状があり、依存性のリスクもあり、漫然とした使用は避ける必要があります。
また「MAO阻害薬(抗うつ薬など)」と「他の食欲抑制薬」は併用禁忌(いっしょに使ってはいけない薬)であり、中枢神経に作用する薬(抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬など)と併用する場合も注意が必要です。
アルコールとの併用も危険(中枢神経への影響が増強する可能性があります)で、高血圧や心疾患のある患者さんは、禁忌ではなくても併用注意薬が非常に多く、実臨床ではかなり制約が強い薬です。
日本で長年使われてきた抗肥満薬だが、適応は高度肥満症に限定され、短期間しか使えないので、マジンドールは特殊な症例に限って用いられる薬、という位置づけになるかと思います。
薬の選択肢は増えてきましたが、生活習慣改善が治療の基本であることに変わりはありません。薬はあくまでサポートであり、主治医と相談しながら安全で持続的な治療を選ぶことが大切です。
以上、日本の保険診療で使える肥満症治療薬はどんなもの?、という話題でした。
この記事が、皆様の生活 (ライフ) のお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。